小売プラットフォームが「モノを売る場所」から「ブランドを届ける場」へと進化する中、マーケティングの現場ではいま、静かに大きな変化が起きています。
2025年、デリーで開催されたマーケティングの国際カンファレンス「Martech Summit」では、そうした変化の最前線をテーマにしたセッションが行われました。当社AnyMindからは、インド・MENA地域を担当しているマネージングディレクターであるAditya Aimaが登壇し、リテールメディアを取り巻く潮流について自身の視点を交えて語りました。
本記事では、セッションの内容をもとに、今リテールメディアに何が起きているのかを振り返ります。

AmazonからBlinkit、Zeptoへ──広告予算の行き先が変わりつつある理由
セッションの冒頭、Aimaは次のような問いを投げかけました。
「なぜ今、広告費がAmazonのような大手プラットフォームから、BlinkitやZeptoといった新興プレイヤーに流れているのか?そして、なぜAmazonはインドでクイックコマースに乗り出していないのか?」
これは単なる問いかけではなく、世界各国のAmazonチームとの対話から見えてきた“現実”を示唆しています。
リテールメディアは、もはや一部の企業が試す新手法ではなく、ブランドの競争戦略の中核へと変わりつつあるのです。
「売る場所」から「伝える場」へ。小売の役割が広がっている
「Retail Media Networks – インドのEC大手は次のアドテックジャイアントになれるか」と題されたこのセッションでは、ファーストパーティデータを活用し、ユーザーの“今この瞬間”に寄り添った広告を打てるリテールメディアの可能性について議論が交わされました。
商品を届けるだけでなく、ユーザーとの接点そのものが“広告”になる。こうした小売プラットフォームの進化は、マーケティング全体の設計を見直すきっかけにもなりつつあります。
Aimaはこう語ります。
「大手ブランドがスタートアップを買収するのは、製品が欲しいからではありません。
消費者により近い距離感を持つその“感覚”こそが、価値だと捉えているのです。」
とくにD2Cブランドがひしめく中、スピード感は重要な要素のひとつです。しかし、スピード感があるだけではいけません。ユーザーの声を拾い、即座に反応できるスタートアップは、消費者ニーズを誰よりも深く理解する必要があります。
だからこそ大手は、そうした感覚や知見を取り込もうと、スタートアップを“買う”のです。
成功の近道はある。でも「近道だけ」ではたどり着けない
もちろん、新興ブランドにとって、この領域は簡単ではありません。
「D2Cは、時間をかけて育てる“アート”です。広告による短期的な成果を追いかけるだけでは、持続的な成長は見込めません。」
上流のブランドづくりを軽視し、下流のパフォーマンス広告だけに頼ると、成果は一時的なものに終わってしまいます。土台がなければ、広告も長続きしない。ブランドとは、そういうものです。
そしてAimaが語った中で、特に印象に残ったのがこの一言でした。
「次にバズるブランドは、明日生まれるかもしれない。しかも、すべてAIでつくられたものかもしれない。」
生成AIやノーコードツールの進化により、今や誰でも簡単にブランドを立ち上げられる時代です。
とはいえ、立ち上げることと、定着させることは別物。そこに必要なのは、信頼・ストーリー・提供価値という、時代が変わっても揺るがない土台です。
AnyMindの視点──変化のスピードに負けないブランド支援を
私たちAnyMindは、こうした変化を「脅威」ではなく「進化のチャンス」と捉えています。
インフルエンサー施策を支援する「AnyTag」、D2C・EC領域を担う「AnyX」「AnyDigital」、ブランドとコマースをつなぐ「Brand Commerce」など、メディア・コマース・コミュニティが重なり合う時代に対応したプロダクト群を展開しています。
リテールメディアにおけるROIの設計から、データを活用したクリエイター施策、アジア各国でのD2C支援まで。
私たちのミッションはシンプルです。
変化のスピードに負けない、未来に強いブランドを育てること。
リテールメディアは、もはや「広告の一手段」ではなく、ブランドのあり方そのものに近づいています。
今回のMartech Summitでは、インドのEC大手が単なる「流通のゲートキーパー」ではなく、デジタル上の注目を設計するプレイヤーとして進化している様子が印象的でした。
そして、そうした変化を読み解く視点を共有し、支える仕組みを持つ私たちのような企業にも、ますます役割が求められていると感じます。
いま問われているのは、「リテールメディアが主役になるかどうか」ではなく、「それがいつ現実になるか」なのかもしれません。