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前編:電通デジタル×フォーエム対談 デジタル時代における広告とメディアの新たな協業戦略

デジタル広告業界は、テクノロジーの急速な進化に伴い、かつてない大きな変革期を迎えている。特に、デマンドサイド(広告主・代理店側)とサプライサイド(媒体社側)の間に存在する情報の非対称性や相互理解の不足が、業界の健全な発展を阻害している可能性が指摘されている。この状況は、効果的な広告配信を妨げるだけでなく、ユーザー体験やブランド価値の低下など、多岐にわたる課題を引き起こしている。

本記事では、当社グループ会社である株式会社フォーエム代表取締役の綿本、フォーエムのアドバイザーを務めるアタラ代表取締役の杉原氏、フォーエムのパートナーであるDentsu Digital Global Centerの小野寺氏の3名による、デジタル広告業界の現状と課題、そして今後の展望についての対談の様子を前後半の2記事にわたってお届けする。杉原氏は進行役も兼ねる。

  • 杉原剛氏: アタラ株式会社 創業者兼代表取締役CEO。慶應義塾大学 法学部法律学科卒業後、KDDI、インテルを経て、オーバーチュア(現Yahoo!検索広告)、Google日本法人で広告営業戦略を担当。2009年にマーケティングのコンサルティングサービスやツールを提供するアタラを創業。デジタル広告業界に25年以上携わるベテランで、フォーエムのアドバイザーも務める。(写真、左)
  • 小野寺信行氏:電通デジタル グローバルセンター (DDGC) マネージャー/電通イノベーションイニシアティブ (DII) コネクト。国内初のDSPベンダーでキャリアをスタート。外資系アドネットワークおよびSSPベンダーを経て、株式会社電通デジタルに参画。参画後から一貫してグローバルアカウントマネジメントに携わり、現職に至る。マネージャーとしてチームを率いながら、DIIコネクトメンバーとしてDIIと連携し、 グローバルプラットフォームのR&Dを推進中。(写真、右)
  • 綿本和真氏: 株式会社フォーエム代表取締役 兼 AnyMind Japan株式会社 執行役員。新卒でソフトバンク株式会社に入社し、法人営業を経験。その後、AnyMind Japan株式会社に参画し、ウェブメディアやアプリディベロッパーといったパブリッシャーの成長支援事業を行うフォーエムに出向。2024年7月にフォーエム代表取締役に就任。(写真、中央)


第1章: デジタル広告業界を取り巻く様々な課題


杉原:「デジタル広告業界の現状の課題について、広告主側にはどのような課題があると考えていますか?小野寺さん、デマンドサイドのお話をお願いします」

小野寺:「デジタル広告の課題は、インプレッションやクリック数などの数値目標が優先されるがあまり、ユーザーの広告体験が十分に配慮されていないことです。その結果、広告はただ表示されるだけで、ユーザーとの本質的なつながりは築けません」

小野寺:「情報があふれる今、ユーザーは意識的にも無意識的にも情報を取捨選択しています。数値目標を追うだけでは、広告はユーザーに届きません。これからの広告には、ユーザーの生活や価値観に寄り添い、意味のあるつながりを築く視点が、これまで以上に重要となります」

杉原:「外資のクライアントはユーザーの広告体験に敏感ですよね」

小野寺:「そうですね。外資系の広告主は、広告を単なる情報発信ではなく、ユーザーとの信頼を築くための重要な手段と捉えています。KGI (ビジネスゴール) 達成に向け、戦略設計を一貫させ、最適なメディア選定やクリエイティブ策定、ブランドセーフティな配信環境の確保、適切なKPI設計を徹底しています。こうした取り組みから、ブランドとユーザー間の長期的な信頼関係を築こうとする姿勢がうかがえます」

杉原:「外資、内資問わず、広告体験に対するクライアントの意識変化はありますか?」

小野寺:「広告体験への意識は高まっていますが、依然として一部の広告主に限られています。ユーザーの関心が高まる瞬間に適切な広告を届けることは、ブランドの信頼や価値向上に欠かせません。しかし業界全体では、『即時的な成果』や『ターゲティング精度』が優先され、ユーザー視点を欠いた広告が目立ちます。その結果、ブランドとユーザーの中長期的な関係構築の機会を損ねているように感じます。ユーザー視点を重視した広告体験は、ブランド価値の向上だけでなく、競争優位性の確立にも繋がります。このアプローチが業界全体に広まり、持続的で効果的な広告体験が定着することを期待しています」

杉原:「広告体験以外の点で課題はありますか?」

小野寺:「広告体験以外にもいくつかの課題があります。例えば、従来の定量的な評価指標、特にCTR(クリック率)やCVR(コンバージョン率)は、広告効果を限定的にしか捉えていない点です。CTRが1~3%の範囲で良しとされる一方で、残りの97%~99%のユーザーは実際には直接的なアクションを起こしていません。このように、従来の定量的な評価指標だけでは、広告の真の価値を適切に評価できていないと言えます。 広告の価値は、ユーザーの直接的なアクション効果にとどまらず、ブランド認知の向上やユーザーの態度変容、ブランドロイヤルティの醸成など、多角的に評価されるべきです。広告主、代理店、メディアがこの視点を取り入れることで、より効果的な広告コミュニケーションが可能となります」

小野寺:「また、広告業界では、サードパーティークッキーの規制に伴い、ターゲティング手法や広告効果測定手法の再構築が急務です。この変化に対応するためには、ファーストパーティーデータの活用、コンテクスチュアルターゲティングやペルソナターゲティング、予測モデルを活用したプライバシーに配慮したアプローチが不可欠です。この新たな局面をチャンスと捉え、持続可能なマーケティング戦略を推進することが、競争優位性を確立するためのカギとなります」

杉原:「日本の場合、Cookieは7割がすでに使えなくなっていて、残りの3割である「Google Chrome」ユーザーのデータを重宝しているわけです。2024年7月にGoogleがサードパーティCookie非推奨を撤回する方針を発表し、Chromeに実装すると見込まれるユーザーに選択を委ねる『新しいアプローチ』もどのようなものになるかまだ判明していませんが、結果的にはサードパーティCookieはほとんど使えなくなることも予想されており、メディア環境は依然厳しい状況にあります」

杉原:「サプライサイドの綿本さんは、現状の課題をどのようにお考えでしょうか?」

綿本:「端的に言うと、メディアのマネタイズですね。メディアの経営が厳しい状況が多く、短期的なキャッシュを作るための行動がすごく多くなってきていると感じます。ユーザー体験を阻害し得るようなフォーマット・クリエイティブに関しては、皮肉なことにダッシュボードで見えてくるCTR、CPC、CPMの数字自体が高くなる傾向にあります。数字上で見ると、これらを入れるべきであるという判断をするが、その先に広告主がいて、ユーザーがいて、という背景を考えずに意思決定をしている部分も多く見受けられます」

杉原:「それに対して、フォーエムがやっていらっしゃる取り組みはなにかありますか?」

綿本:「短期的に見ると、業績を少しでも上げないといけないので、そういったフォーマットを提案する機会は正直なところあります。一方、広告でのメディアマネタイズを行う場合、広告枠数を減らしたほうが全体の収益化効率が上がるケースもあり、それらを導入することだけを目的として捉えないように心掛けています。また、私個人としては、レポート上の数字が良くても、マーケティングのエコシステム全体を鑑みて今の状態が健全ではないと思っています。故に、パブリッシャーが持つコンテンツやブランドの価値を最大化し、質の高い広告体験を提供していけるよう独自の広告商品を開発し、日々提案活動に励んでいます。評論家で終わるのではなく実現に向けて、泥臭く取り組んでいきます」

杉原:「私は、広告だけに頼って収益化を目指すのは厳しい部分がある気がして、メディアには収益多角化が必要だと思っています。そこは綿本さんとしていかがでしょうか?」

綿本:「おっしゃる通りです。ただ、収益多角化に関しては、まだ成功事例も多いわけではなく、これから増やしていきたいですね。2023年下半期あたりからより一層そこに向けて注力しているメディアが多い印象なので、今後さらに事例が出てくるかなと思います」

杉原:「収益多角化という面で、フォーエムが取り組んでいることはありますか?」

綿本:「親会社であるAnyMind Groupとの協業を通して、EC事業の立ち上げやグロース、コンテンツ課金、テキストコンテンツだけではなく動画や音声メディアのグロースや収益化、生成AIの利活用など、各パブリッシャーごとにオーダーメイドでお取り組みさせていただいております」

第2章: 「Cookie」廃止とファーストパーティデータ偏重


杉原:「Cookieの廃止による影響は大きいですよね。Cookieレスの様々なソリューションも出ていますが、それに伴ってファーストパーティデータ偏重になっているとも思います」

杉原:「そうなると、デマンドサイドとサプライサイドでより連携していく必要があると思うのですが、あまりそういう機会が無いようにも感じます。綿本さんはこれに関してはどう思われますか?」

綿本:「ファーストパーティデータを保有しているパブリッシャーはすごく少ないと思います。なので、各パブリッシャーが連合を組み、データの連携をデータクリーンルームでやっていく。データ量の担保や質の向上を目指す上でそういった動きは大事な要素であると考えております」

綿本:「またデータの標準化にも課題があると思います。例えば、年収でターゲットユーザーを設定する際の項目として『高収入層』というセグメントがあったとします。その際に、パブリッシャーAは1000〜1300万円、パブリッシャーBは900〜1200万円で区切っているということがあります。このように、データの取り方が全然違うケースも多いので、データに関するルールの共通化は誰かが先導を取ってやっていかないと進まないと感じています」

杉原:「日本のメディアはアメリカと比較してもユーザーの母数が少ないので、だからこそ、私はうまくいくキーポイントが『集約』だと思っています。ただ、そのためにも、データの正規化が必要ですよね。そういう役割をフォーエムが担っていくんだと思います」

小野寺:「データ集約と正規化が進み、統一されたデータ基盤が整備されることは、デマンドサイドにとって大きな利点です。複数のパブリッシャー間で一貫性のあるデータが活用されることで、ユーザーの行動や興味関心をより精緻に把握し、ターゲティング精度が大幅に向上すると思います。その結果、リーチの質も飛躍的に向上するでしょう。 さらに、データ連携が進むことで、ユーザーとブランドの最適な接点を設計し、広告投資対効果を改善することが可能となります。エコシステム全体でデータの信頼性が確保され、すべてのプレイヤーが持続可能な形で協力し合う基盤が整うでしょう」


第3章: 課題解消と原点回帰

杉原:「ここまでの話を聞くと、今一度、デマンドサイドがサプライサイドに向き合いなおす必要があるように思います」

杉原:「例えば、昔とあるメディアレップが媒体の広告商品の情報を入手できる説明会を開催していて、良い機会になっていました。昨今はそういった機会もなくなりましたし、なによりデマンドとサプライが対話する機会が不足していると感じます」

小野寺:「おっしゃる通り、サプライサイドとデマンドサイドが相互理解を深め、協力していくことは業界の持続的な成長に不可欠です」

小野寺:「既存の業界イベントや勉強会はありますが、デマンドサイドとサプライサイドがこれまで以上に主体性を持ち、情報の発信や共有にとどまらず、『ジャーナリズムの在り方』や『本質的な広告効果』、さらには『ユーザー視点の広告』といったテーマについても共に議論し、具体的なマーケティングアクションに移していくことが今後ますます重要になると考えています」

杉原:「私がアドセンスのコンサルティングをしたときの体験談なのですが、広告枠を買い手側に説明するテキスト欄があって、メリットやデメリットを書くべきだったんですが、まるで書いていない、ないしは買い手には伝わりにくい形で書いてあるといったことがありました」

杉原:「このエピソードから学んだことなのですが、デマンドサイドとサプライサイドでは、使っている用語もKPIも違う。ならば、交流の場を設けるのはもちろん、デマンドサイドだけではなくサプライサイドも経験すべきだと思うんですね。フォーエムはどちらのサイドも経験できるじゃないですか?」

綿本:「そうですね、両方を経験してほしいと狙ってはいませんが、AnyMind Groupやフォーエムとしても、デマンドサイドとサプライサイド、両面と相対していることは弊社の強みではありますね」

小野寺:「仕入れと供給のバランスは業界の成長に不可欠であり、偏ることは避けるべきです。私たち広告代理店は、広告主の要望に応じたメディアやプラットフォーム、ソリューションを提供するだけでなく、市場の変化を踏まえ、最適な提案を通じて、業界全体に持続可能な価値を提供することが使命であると考えています。また、メディアの価値を守り、サプライサイドとデマンドサイドが共に発展できるよう努めることも、広告代理店の重要な役割です。そのためには、サプライサイドの視点も深く理解し、広告商品の設計や開発にも協力し、業界の新たな課題に積極的に対応することが求められます」

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